バブ・エル・マンデブ海峡が「第二のホルムズ」に――フーシ派の海峡制圧とサウジ原油迂回路の機能不全を巡る視点比較

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はじめに

イエメンのフーシ派(アンサールッラー)が2026年9月、紅海南端の要衝バブ・エル・マンデブ海峡沿岸の実効支配をほぼ完成させた。同時期にサウジアラビア国内では、ホルムズ海峡の事実上の閉塞(2026年2月末の米・イスラエルによる対イラン開戦以降)を迂回するための生命線である東西パイプラインが無人機攻撃で停止に追い込まれた。原油の二大輸送路が同時に不安定化する事態は2026年に入って初めてであり、本稿では欧米主要メディアとロシア国営メディアRTの分析記事を比較し、事実関係と論点の違いを整理する。

事実整理(時系列)

  • 2026年2月下旬:米・イスラエルによるイランへの軍事行動開始。以降、ホルムズ海峡は事実上封鎖状態となり、開戦前に同海峡を通過していた原油の輸送が大きく制約されている。
  • 2026年3月28日:サウジアラビアの迂回路である東西パイプライン(総延長約1,200km)が日量700万バレルのフル稼働に達したと関係者情報として報じられる。紅海側のヤンブー港経由で日量約500万バレルを輸出する体制が構築されていた。
  • 2026年7月:フーシ派がサウジ関連船舶に対する「封鎖」を宣言。
  • 2026年9月8日:サウジのファイサル外相が、フーシ派との間で外交による解決の余地は残っているとの見解を表明する一方、自国防衛のためあらゆる手段を用いると述べた。
  • 2026年9月10〜11日:フーシ派が紅海の要衝モカ港を制圧し、紅海沿岸部の実効支配をほぼ完成。海峡入口付近の島も確保した。同じ11日、イラク方面から発射された無人機がサウジの東西パイプラインを直撃し、サウジ・エネルギー省が操業停止を確認。サウジ外務省は、イラク首相からの要請を踏まえ即時の報復は見送るとしつつ、自国の主権と重要施設を守るためあらゆる措置を講じる権利を留保すると発表した。
  • 2026年9月12日:パイプラインが正式に停止。複数の関係筋によれば復旧には数週間を要する見通し。同日、フーシ派はハニシュ諸島(大小)を新たに制圧した。
  • 2026年9月14日:フーシ派が海峡中央に位置するマユン島(ペリム島)方面へも進出。国連の推計として、今回の戦闘激化以降にイエメン国内で8万人超が避難したと報じられている。
  • 2026年9月15日:原油価格(WTI)が1バレル105ドルを突破。サウジが一部原油カーゴを取り消したとの報道も出た。サウジ主導連合は、フーシ派によるハミース・ムシャイト、アブハ、ターイフへの無人機・弾道ミサイル攻撃を確認。ホルムズ海峡でもタンカー攻撃が続き、米中央軍(CENTCOM)は、イラン側が主張する機雷接触説を否定し、パナマ籍タンカー「エルガイア」は先月イランのミサイル攻撃で航行不能になったものだと説明した。同日、サウジのムハンマド・ビン・サルマン皇太子がエジプトのシーシ大統領に後ろ盾を求めて接触したと報じられた。

視点比較:欧米主要メディア vs ロシア国営RTの分析

同じ事象について、欧米メディア(NBCニュース、ワシントン・ポスト、PBS、アルジャジーラなど)とロシア国営RT(中東研究者による寄稿、2026年9月15日掲載)とでは、力点の置き方が異なる。

視点A:欧米主要メディア フーシ派の海峡制圧を、対イラン戦争における「イラン側の新たな交渉力」として位置づける論調が中心。サウジの原油輸出とグローバルな海上輸送への打撃、イエメン国内の人道危機(避難民8万人超)を強調し、米国がすでに直面しているホルムズ危機に加えてもう一つの正面を抱え込むことになる点をリスクとして描く。

視点B:RT(識者寄稿)の地政学分析 フーシ派を単純な「イランの代理」ではなく、港湾の運用拡大、サナア空港の利用拡大、公務員給与の支払いといった独自の対サウジ要求を持つ主体として位置づける。海峡の完全封鎖自体が目的ではなく、保険料や航路変更を誘発する程度の「可変的リスク」を演出することが狙いだと分析し、ホルムズとバブ・エル・マンデブを合わせた「二正面圧力システム」という枠組みを提示する。サウジについては、国内の経済改革路線を優先するため全面戦争を回避し、防空強化や限定的な対応にとどめる公算が高いと予測している。

比較整理表

論点欧米主要メディアの見方RTの見方
フーシ派の位置づけイランの代理勢力としての「梃子」独自の対サウジ要求を持つ主体、イランとは利害が部分的に重なるだけ
海峡制圧の狙い通商そのものへの打撃・威嚇完全封鎖ではなく「可変的リスク」による保険料・航路変更の誘発
サウジの想定対応石油収入減・人道危機への懸念を強調経済改革路線を優先し、全面戦争を避ける抑制的対応と予測
米国の立ち位置対イラン戦争の圧力材料が増大複数正面への同時対応を強いられ、資源分散のコストを負う

数字で見る海峡封鎖の影響

指標数値出所・時点
ホルムズ海峡の輸送量(開戦前基準)日量2,090万バレルEIA、2025年上半期実績
バブ・エル・マンデブ海峡の輸送量(開戦前基準)日量420万バレルEIA、2025年上半期実績
スエズ運河・SUMEDパイプライン輸送量(開戦前基準)日量490万バレルEIA、2025年上半期実績
サウジ東西パイプラインの能力日量700万バレル関係者情報(2026年3月28日時点)
原油価格(WTI、2026年9月15日)1バレル105ドル超市場報道
イエメン国内避難民(今回の戦闘激化後)8万人超国連推計(報道引用)

今後の注目ポイント

  • 東西パイプラインの復旧時期(「数週間」とされる見通しが前倒し・後ろ倒しのいずれになるか)
  • フーシ派によるマユン島(ペリム島)周辺での軍事的プレゼンスの恒常化の有無
  • サウジ・エジプト間の安全保障協力の具体化(皇太子とシーシ大統領の接触の続報)
  • ホルムズ海峡での船舶攻撃の頻度と、米中央軍による原因特定の内容
  • OPEC+の増産余地と、サウジの原油カーゴ取り消し状況の推移

考察・今後の予測

バブ・エル・マンデブ海峡の輸送量は開戦前で日量420万バレル(EIA、2025年上半期実績)、迂回路の東西パイプラインは日量700万バレルの能力を持つ。すでに閉塞状態のホルムズ海峡(開戦前で日量2090万バレル)に加えてこの経路も不安定化すれば、サウジは主要な原油輸送ルートの大半を同時に脅かされる。フーシ派がマユン島の実効支配を維持する限り保険料上昇による減便は避けられず、パイプライン復旧に数週間を要する以上、同海峡経由の輸送量は今後数週間で1〜2割程度目減りし、原油価格は1バレル105〜115ドルで高止まりする公算が大きい。フーシ派はサナア空港の運用拡大や公務員給与支払いなど対サウジ要求を通す交渉材料として海峡の緊張を利用しており、対イラン圧力という構図だけでは説明できない駆け引きが続くとみられる。

参考文献・ソースリンク

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